Dyno

制作会社視点でのよい RFP のポイント

今回は、ウェブ制作の RFP に関して、制作会社側視点で見たときの よい RFP のポイント についてつらつら述べてみたいと思います。 ウェブ制作の発注者側に立つ方はぜひ参考にしてみてください :D

念のための補足ですが、ここで RFP とは「 Request for Proposal 」、日本語でよく「提案依頼(書)」と呼ばれるもののことを指しています。 また、 RFP は RFI (情報提供依頼)や RFQ (見積もり依頼)とは異なるので注意してください。

まずお話の前提として、ウェブ制作における RFP の目的を確認しておきましょう。 RFP の目的とは、ひとことで言うと 制作会社に興味を持ってもらい、有益な提案をもらうこと です。

どれだけ手をかけて作られた立派な RFP でも、この目的が果たせない RFP はよい RFP とは言えません。 そもそも制作会社の興味をひかなければアウトですし、たとえ興味を引き出せても有益な提案が得られなければそれも RFP 本来の役割を果たせたとは言えません。

ですので、ベースの心構えとして、 制作会社が興味を持ち、有益な提案をしたくなる RFP を作る必要がある という認識が必要です。

では、そんな RFP とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。 それを考えるには「 RFP をもらった制作会社がどのように考え判断するのか」というのを知っておくのが近道です。

RFP をもらった制作会社が考えること

制作会社が RFP をもらったときに考えるポイントはいろいろとありますが、その中でも「 RFP に対応するかどうか」の意思決定につながる重要なポイントは次の 4 点です。

  1. プロジェクトとクライアントは魅力的か?
  2. 受注の可能性は高いか?
  3. 対応コストは低いか?
  4. 対応できる体制があるか?

1. プロジェクトとクライアントは魅力的か?

ひとつめのポイントは プロジェクトとクライアントは魅力的か? です。 発注者が制作会社を選べるように、制作会社にも発注者を選ぶ権利があります。 特に腕がよく人気の制作会社は、受注できるよりも多くの依頼を受けていることが多いので、プロジェクトを厳しく精査して取捨選択します。 制作会社にとっていくら受注可能性の高いプロジェクトでも、プロジェクトやクライアントに魅力が無ければ、制作会社は受けません。

ここで言う魅力として真っ先に思いつくのは「プロジェクト単体の収益性」ですが、その他にもさまざまな要素が魅力として認識されます。 例えば、「実績にあげたときのブランド力の高さ」「プロジェクト期間中のスタッフのストレスの低さ」「中長期的なライフタイムバリューの高さ」等も魅力のひとつです。

2. 受注の可能性は高いか?

もうひとつの判断ポイントは 受注の可能性は高いか? です。 どれだけプロジェクトとクライアントに魅力があったとしても、プロジェクトを受注できる可能性が無ければ、制作会社にはその RFP に応える道義はありません。 例えば、資本金が 500 万円の制作会社が、取引条件として「資本金 1 億円以上」をかかげている会社から RFP をもらったとしても、それに応えるのは合理的な判断とは言えません。 受注できる可能性が 0 または 0 に近いのであれば、制作会社がとるべき合理的な反応は RFP をきっぱりと断ることです。

制作会社が受注の可能性を推し量る材料には、「発注者側のプロジェクトの本気度」「プロジェクト特性と自社の能力のフィット」「競合の数」「競合と比較したときの自社のポジショニング」等があります。

3. 対応コストは低いか?

続く判断ポイントは 対応コストは低いか? です。 たとえプロジェクトに魅力があり、さらに受注の可能性が高かったとしても、 RFP への回答に膨大なコストがかかることが予想されるなら、リスクの大きさやキャッシュフローを考慮し制作会社はその RFP への対応を躊躇します。

極端な例として、名だたるブランドから発注予算 100 億円のウェブプロジェクトの件で制作会社に声がかかった場合を考えましょう。 もし仮にその RFP への対応に 10 億円かかるなら、いくら受注確率が高くても世界のほとんどの(中小規模の)制作会社は対応しないでしょう。

ウェブ制作における RFP 回答は制作会社にとっては受注獲得活動の一貫であり、制作会社は通常無償で対応します。 そのため、仮に魅力度と受注可能性が同等のプロジェクトの RFP が 2 つあったら、制作会社はコストがなるべく少ない方を選びます。 実際には、コスト単体で決めることは少なく、ひとつ前の「受注の可能性」とのバランスで判断することが多いと思います。

4. 対応できる体制があるか?

第四のポイントは 対応できる体制があるか? です。 たとえ他のすべてのポイントが OK でも、対応に必要なリソースが十分でない場合は対応することができません。 プロジェクトがどれだけ魅力的で受注可能性が高く、対応コストが十分低かったとしても、対応できるメンバーがいないあるいは能力が無ければ、当然ですが制作会社は RFP は断るしかありません。

制作会社が RFP への対応を行うかどうか決める上では、おおよそこの 4 つのポイントを見ていると思ってよいでしょう。

ただしこのお話には「制作会社がある程度合理的な判断ができる」という前提があります。 日本中の制作会社が合理的な判断をするところばかりとはかぎりませんし、合理性を持っていてもこれらとはまったく別の判断軸を使っている会社ももちろんあるでしょう。 しかし、私自身の経験からは概ねこのようなポイントが見られていると考えてよいと思います。

RFP に対する制作会社側の意思決定のロジックを押さえることができたら、「よい RFP 」がどんなものであるかは、自ずと想像がつくのではないかと思います。

サンプルに、以下いくつか代表的なポイントをご紹介します。

制作会社視点で見たよい RFP のポイント

A. 依頼者の本気度が伝わってくる

よい RFP には依頼者のプロジェクトに対する本気度が現れています。 これは「ソーシャル連携機能!」「スライドショー!機能!」といった感じで語句の表現が強いという意味ではありません。 依頼者の事業にとってこのプロジェクトがいかに重要なものであるということが、 RFP 内の情報の充実度や表現方法、依頼の仕方等から伝わってくるということです。

その意味で、誤字脱字が多かったり基本的な情報が揃っていなかったりすると、制作会社は「そこまで真剣に考えていないんだな」「この調子だと、実際に始まるかどうかもわからないし、受注しても苦労するだろうな」と考えます。

B. プロジェクトの CSFs が示されている

よい RFP は、依頼者が考えるプロジェクトの CSFs を明らかにしています。 ここで CSFs とは Critical Success Factors ――「プロジェクトを成功させるために必ず押さえるべき重要なポイント」のことです(ほぼ道義のことばに KSFs もあります)。

プロジェクトの目的やゴールを達成する上で、どのようなことが必要になるのか。 現状どのような課題があるのか。 依頼者が本気でプロジェクトの成功を望んでいるのであれば、そのあたりはある程度独力で事前に考えられているはずです。 依頼者が CSFs の議論もせず、最初から丸投げで制作会社に情報収集を依頼するようなウェブプロジェクトは、その時点で失敗しているようなものです。

CSFs ということばは日本では一般的ではないので、このことばが含まれているかどうかは重要ではありません。 重要なのは、依頼者がプロジェクトを成功させるために「どういうことが重要なのか」「どういう課題やリスクがあるのか」を真剣に考えた跡が RFP に現れていることです。

C. 予算が示されている

よい RFP は、プロジェクトの予算を明記しています。 予算策定前で予算が正確に決まっていない場合でも、予算の幅だけでも記述されている方が断然印象はよいものです。

依頼者が RFP で予算を伝えることにはメリットとデメリットがありますが、ほとんどのケースではメリットがデメリットを上回るでしょう。 これは制作会社側の視点で考えるとよくわかります。 制作会社が RFP に応える際に予算を知らされないと、まったく的はずれな提案をしてムダな時間を費やすリスクが高まります。

予算を知らされずに RFP に応えるというのは、例えば、建築士が予算を知らされずに「家を建てたいので図面を提案してください」と頼まれるようなものです。 家の予算が 2000 万円なのか 3000 万円なのか 1 億円なのかによって提案の幅が大きく変わるように、ウェブプロジェクトも予算次第で提案できる内容は大きく変わります。

また、予算を記述できない理由が「仮の予算さえ立てられないから」であれば、それはおおもとの事業や投資の計画が足りていないことを意味します。 その場合は問題は RFP 以前のものなので、まずは RFI を出す等して、問題なく RFP のフェーズに進めるための取り組みを行う必要があります。

D. 制作会社に期待するポイントが示されている

よい RFP には、制作会社に期待するポイントが明示されています。 制作会社にはどのような役割が期待されていて、依頼者が制作会社にお願いしたい作業スコープはどこからどこまでなのか。 例えば、ウェブサイトリニューアルのプロジェクトであれば、旧サイトからのデータの移行、運用の再設計、現行の管理会社とのやりとりを誰がやるのか。 依頼者は狭い意味での制作だけを制作会社にお願いしたいのか、それとも運用やマーケティング等も含めた広義のウェブプロジェクト支援を求めているのか。 そのあたりの期待値が明確に示されていると、制作会社はより有益な情報の提供にエネルギーを集中することができます。

E. 評価軸が示されている

よい RFP は、制作会社選定の際の評価軸を明確に示しています。 RFP で評価軸が明確にされている場合、制作会社は 2 つのことを感じます。 ひとつは、「間違った方向に努力をしてしまう心配がなくなって助かるな」ということ。 もうひとつは、「依頼者は仮説で考える能力があるんだな」ということです。

「とりあえず RFP を出して、評価は返事をもらってから考えよう」という依頼者と「事前にできるかぎりの準備をしてから RFP を出そう」という依頼者の 2 社がいた場合に、制作会社から好まれるのは言うまでもなく後者です。

F. 制作会社への敬意が見える

よい RFP には、制作会社への敬意が現れています。 腕のよい制作会社は多くの場合プロジェクトを選べる状況になっているので、よっぽどの理由が無いかぎり好き好んで失礼な依頼者の RFP に対応することはありません。 そのため、最低限の敬意が示せていない RFP の場合は門前払い、まったく相手にしてもらえない可能性もあります。

他社に敬意を払えないのはそもそも人としてダメですが、あくまでもビジネスとして打算的に考えた場合でも失礼な形で RFP を送るメリットは少ないので、最低限のマナーは守るのがよいでしょう。

G. 基本的なミスが無い

よい RFP には、誤字脱字や図表の間違いなどの基本的なミスが、ほとんどあるいはまったくありません。 これは RFP の目的や重要度を考えればある意味当然のことでしょう。

もちろん、機械ではない人間がまったくミスを侵さないということはありません。 どれだけ気をつけてもミスが起こることは避けられませんが、 RFP において重要なのは、一度でも見直しをすれば気づくであろうような基本的なミスをなくすことです。

基本的なミスが散見される RFP を受けたときの制作会社の反応は「これは見直しをする価値も無いものなんだろうな」「この会社は正確な情報を伝えようとする努力をしないんだな」です。

H. 重要な情報にモレがない

よい RFP は、重要な情報がひととおり押さえられています。 特に、制作会社が有益な提案を行う上で必要な情報が網羅されていることが重要です。 重要な情報には、上であげた「 CSF 」や「予算」の他に、例えば次のようなものがあります。

  • プロジェクトの背景
  • 上位のビジネス目的
  • ビジネスモデル
  • サイトの対象ユーザ層
  • ステークホルダー一覧
  • 認識している課題・リスク
  • 制限事項
  • スケジュール

必要な情報が欠けている場合、制作会社は依頼者に確認するか確認なしで仮説を立てて進めるかすることになりますが、ポイントが多ければ多いほど制作会社側の対応のコストや仮説間違いのリスクが高まります。

プロジェクトにまったく関係のない情報は載せるべきではありませんが、提案に少しでも関わる情報については可能なかぎり RFP に記載しておくのがよいでしょう。 日本人は重要な情報のやりとりを口頭で済ませたがる傾向がありますが、こと RFP に関しては重要な情報はすべてドキュメントに落とし込むことが重要です。

と、さまざまなポイントがあります。 細かくあげていくとキリがないのでこのくらいに留めておきます。

具体的なポイントはプロジェクトの特性や依頼先の制作会社によって変わるでしょうが、 制作会社に興味を持ってもらい、有益な提案をもらう という本来の目的を効果的・効率的に果たす RFP がよい RFP である、という原則は変わりません。

ウェブプロジェクトの RFP 作成のご参考になれば幸いです :D