Dyno

ウェブ制作における RFI ・ RFP ・ RFQ とは

追記 2019/08/19: 短縮版も作成しました。少し違った切り口から説明をしているので興味のある方はこちらもご覧になっていてください :D

今回はウェブ制作における 3 つの用語 RFI RFP RFQ についてご説明します。

この 3 つはウェブ制作に関わるすべての人が押さえておくべき受発注の基本用語です。 ウェブ制作に関わる方でこれらの用語についてまだあまりよく知らないよという方はぜひこの機会に覚えていってください。

ソフトウェア開発の「はしご」

3 つの用語の説明をお読みいただく前に、知っておいていただきたいことがひとつあります。 それはソフトウェア開発における「はしご」の考え方です。

一般に、ビジネスの文脈でのソフトウェア開発は、おおよそ次のような流れに沿って行われます。

ビジネスニーズ

システム要求

仕様

実装

まず最初に「○○の売上を上げたい」「○○にかかるコストを減らしたい」といった「 ビジネスニーズ 」があります。 かつてピーター・ドラッカーは、ビジネスとは「顧客の創造」であり企業の核は「マーケティングとイノベーションだけ」と言いましたが、システム開発の成功にもマーケティングは欠かせません。

Because the purpose of business is to create a customer, the business enterprise has two ― and only two ― basic functions: marketing and innovation . Marketing and innovation produce results; all the rest are costs. Marketing is the distinguishing, unique function of the business.

― Peter Drucker

システム開発に基礎には、適切なマーケティング活動によって裏付けられた明確なビジネスニーズがあるべきです。

ビジネスニーズの次にくるのは、「ページ更新ができるだけ短時間にできること」「ユーザの嗜好に応じて記事を出し分けすること」といった「 システム要求 」です。 システム要求とは、 上位のビジネスニーズを満たすためにシステムが押さえるべきポイント のことです。 システム要求は一般に抽象度の高いポイントになることが多いですが、ビジネスニーズを満たすための CSF に直接影響するポイントであれば抽象度の低い具体的なポイントを含めることもあります。

続いて、ビジネスニーズの次に繋がるのは、「スタッフが管理者ページからページを更新できる」「利用者の閲覧ページと関連の高い記事をサイドナビに表示する」といった「 仕様 」です。 仕様とは、システムが持つさまざまな特徴です。 システム要求という期待値に対する回答です。 一般に、要求を満たす仕様のオプションは複数あるいは無数にあることが一般的です。 この仕様を「策定する」というのは、制約条件を考慮した上でそれらの中から最適なものを選ぶ取り組みです。

仕様が決まれば、最後にやってくるのは具現化のための「 実装 」です。 実装は、 仕様に基づいて実際に動くシステムを作る作業 のことです。 一般の方には実装というのは耳慣れないことばかと思いますが、一般的なビジネス企画でいうところの「実行」に相当すると考えていただくとよいでしょう。

余談ですが、実装は英語の implementation の訳語です。 実行も implementation の訳として使われるので、実は英語では「実装」も「実行」も同じことばで、日本語で呼び方が異なるにすぎません。 私はソフトウェアの歴史の専門家ではないので確証はありませんが、ソフトウェアでいうところの implementation を「実行」と訳すとなんだか違和感があるということで「実装」ということばがあえて作られたのではないかと思います。

この最後の実装フェーズの成果物として実際のシステムが生み出されます。

つまり、 システム開発とは、ビジネスニーズ → システム要求 → 仕様の順に定義していき、それを最後の実装という具象化のフェーズを通して現実化する作業 です。 ウェブサイトの構築の流れもまさしくこれと同じです。 成功するウェブサイト構築は、この「はしご」の上を上下に行きつ戻りつしながら進めていく形になります。

呼び方はひととおりではありませんが、例えば英語では次のように言ったりします。

ビジネスニーズ (= Business Requirements)

システム要求 (= System Requirements)

仕様 (= Specification)

実装 (= Implementation)

この「はしご」のイメージを頭に入れた上で、以下読み進めてください。 尚、ここでは「システム」「ウェブサイト」は似た意味を持つので、以後「システム」ということばは使わず「ウェブサイト」で一本化します。

RFI ・ RFP ・ RFQ

一般に、 RFI ・ RFP ・ RFQ はこのとおりの順番で使用します。 RFI から順に説明していきます。

RFI とは

RFI (アール・エフ・アイ)とは Request for Information の略で、日本語ではよく「情報提供依頼」「情報提供依頼書」と呼ばれます 。 発注者側が、「ビジネスニーズ」をある程度明確にした後に「システム要求」を検討・決定するための情報提供を制作会社に依頼する取り組みとその資料のことを指します。

Information というとても意味の広い単語が使われているためイメージがわきづらいのですが、ここでいう「情報」とは詳細な技術ノウハウではなく、大筋の意思決定に役立つやや抽象度の高い情報を指す場合が多いです。

上で「ビジネスニーズをある程度明確にした後に」と述べましたが、一般に RFI 投げかけのタイミングで発注者が「ビジネスニーズ」の定義と予算取りを完了させているとはかぎりません。 制作会社各社からの RFI に対する回答を参考にしながら企画を固めて予算取りをする、というのが RFI の使い所として一般的かと思います。

上の「はしご」のイメージでいうと、 RFI は「ビジネスニーズ」と「要求」のところで使用されます。

RFP とは

RFP (アール・エフ・ピー)とは Request for Proposal の略で、日本語ではよく「提案依頼」「提案依頼書」と呼ばれます 。 こちらも発注者側が、「ビジネスニーズ」と「要求」をある程度固めたところで、その要求を満たすアプローチに関する具体的な提案を制作会社に出してもらうよう依頼する活動や資料のことを指します。

これといった所定のフォーマットはありませんが、ウェブサイト構築プロジェクト全体の概要・背景と、構築したいサイトの概要、各社に求める提案の内容を記載し、提案方法等についてもあわせて指定する形が一般的かと思います。 Proposal (提案)ということばが含まれているので、馴染みのない方でも RFI よりはイメージがわきやすいのではないでしょうか。

上の「はしご」のイメージでいうと、 RFP は「要求」から「仕様」に続くところで使用されます。

RFP については別記事もありますので興味のある方はそちらもご覧になってみてください。

RFQ とは

RFQ (アール・エフ・キュー)とは、 Request for Quotation の略で、日本語ではよく「見積依頼」「見積依頼書」と呼ばれます 。 RFI ・ RFP と同じく発注者が行う活動や資料で、発注者が「仕様」をある程度固めた後で、具体的な金額の見積もりを提示するように制作会社に依頼する活動や資料のことを指します。

私の経験では見積もり依頼をわざわざ RFQ と呼ぶような場面にはあまり遭遇しませんが、ウェブサイト構築を依頼する際はまず間違いなく事前に見積もりを出してもらっているはずなので、 RFQ の作業そのものは発注経験のある方にとってはとても馴染みのあるものでしょう。 一般には、金額や納期等によっては、 RFP と RFQ を一緒にして制作会社に投げかける場合も多いかと思います。

RFQ にも業界標準の所定のフォーマットがあるわけではありませんが、相見積もりのために複数の制作会社に見積もりを依頼する場合や発注頻度が高いような場合には RFQ の基本テンプレートをあらかじめ決めておくことで、情報伝達のヌケモレを減らしコミュニケーションの精度を高めることができるでしょう。

正式な RFQ を書くのであれば、合計金額の他に、内訳(明細)、納品物、納期、支払い方法等は最低限押さえておくとよいのではないかと思います。

上の「はしご」のイメージでいうと、 RFQ は「仕様」以降で使用されます。

ということで、ウェブサイト構築に関わるすべての人に押さえておいていただきたい 3 つの用語―― RFI ・ RFP ・ RFQ についてでした。

ちなみに、日本ではあまり一般的ではありませんが、英語圏では RFI ・ RFP ・ RFQ に似たことばとして次のようなことばなんかもよく使われるようです。

  • CFB (Call for Bids): 入札依頼
  • ITT (Invitation to Tender): 同じく入札依頼

参考:

コメント

あくまでも私の観測に基づく印象ですが、 RFI ・ RFP ・ RFQ という用語を日常的に使いその取り扱いを標準化して業務を回せている会社は、全制作会社のうちの 10 - 30% ほどと少数派です。 ですので、将来の取引先候補である制作会社が RFI ・ RFP ・ RFQ という用語に慣れていなかったとしてもさほど気にする必要はありません。

ただ、「 RFI ・ RFP ・ RFQ に疎いこと」はネガティブではありませんが、逆に「 RFI ・ RFP ・ RFQ の言葉の意味や取り扱いに慣れていること」はポジティブなポイントとして評価してもよいのではないかと思います。

ウェブ制作における 3 つの用語「 RFI 」「 RFP 」「 RFQ 」についてのご説明でした。 ご参考になれば幸いです :)