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なぜウェブサイトのリニューアルは新規構築よりも高額になるのか

今回は なぜウェブサイトのリニューアルは新規の構築よりも高額になりがちなのか という点についてお話します。 想定読者は ウェブサイトのリニューアルを制作会社に依頼したいと考えている方 です。

企業のウェブ活用が当たり前の時代になってからしばらく経った今、ウェブ構築プロジェクトの大半は既存サイトからのリニューアルです。 リニューアルといえば、ウェブ業界以外の方の多くが「新規構築よりも安そう」となんとなく思いがちだと思うのですが、いかがでしょうか。 実態はその逆で、ウェブサイトのリニューアルは一般に新規構築よりも高額になりがちです。 以下にその理由をご説明します。

大きな理由は 2 つあります。

理由 その1: 制作会社は要件や仕様を解読する必要があるから

サイトリニューアルの依頼で制作会社によく持ちかけられるリクエストで、制作会社側が最も嫌がるものをご存知でしょうか。 それは

これと同じものを作ってほしい

です。 おそらく、ウェブ制作業界で働く人にアンケートをとると 90% 以上の人が「そのリクエストに応えるのは嫌」と答えるのではないかと思います。

というのは、「これと同じものを」の「これ」はほとんどの場合、作り手視点で見ると非常にあいまいで、迷いなく実装できるレベルにはありません。 「これ」を実現するアプローチは無数にある場合がほとんどです。 そのときに、「これ」の目的は何で KSF (成功要因)は何で押さえるべきポイントは何なのかがわからないと、無数にあるオプションの中から最適なものを選ぶことはできません。

一方で、「これと同じものを」と言う依頼者の側は詳細を聞かれても「これと言ったらこれだろ!(そんなこともわからないのか)」という反応をしがちなので、制作会社は依頼者側の無理解を乗り越えて要件や仕様を引き出していく必要があります。 場合によっては、サイトの URL だけ渡されノーヒントでリバースエンジニアリング・要件の抽出を求められることもありますが、そのときは大変です(私ならそのリクエストは一発でお断りします)。

特に、一般のシステム開発と違ってウェブサイトの場合は、要件や仕様がしっかりとドキュメントとして残されないことも多いので、現行サイトの要件や仕様をサッと提示できる依頼者は全体の 10% 以下です。 そんな中で、思い違いや見落としなく依頼者の要件や仕様を抽出するというのは、困難でストレスが高い仕事です。

もちろん、要件や仕様の詰めという作業が必要な点は新規の構築のときも同じです。 しかし、リニューアルのときには、下手に現行サイトがあるせいで、依頼者側が情報提供に消極的であったり、思い込みや思い違い等が起こります。 いっそゼロからの新規構築の方が思い込みや思い違いが少なく、むしろスムーズに話が進められることが多いのが実情です。

規模の小さなウェブ制作の場合、これらの作業は契約を結ぶ前に行うこともありますが、それらの作業にかかったコストは普通見積もりに上乗せされます。

ということで、サイトのリニューアル時は新規の構築に比べて、現物からリバースエンジニアリングで解読する作業の分だけ工数=金額が増えることが多いと言えます。

この問題について依頼者側ができる対策 :

  • 「これと同じものを」といったあいまいなリクエストではなく、期待するものを具体的に書き出す
  • 現行のサイトについてのドキュメント・資料をできるだけ集めて提供する

理由その2: コンテンツの移行作業が必要だから

サイトのリニューアルにおいて、既存のコンテンツをすべて捨てて新たに作り直す場合はごく稀です。 ほとんどのリニューアルプロジェクトでは、既存のコンテンツ(≒ページ)の一部あるいは全部を、リニューアル後のサイトに移行させます。

このコンテンツの移行に際して必要な作業はおおよそ次のとおりです。

  1. 現行のコンテンツの洗い出し
  2. サイト構成の決定
  3. コンテンツ移行方針の決定
  4. コンテンツモデルの設計
  5. コンテンツ移行の実作業
  6. 確認
  7. CSS 基本スタイルの調整

下準備として、まず現行のコンテンツをすべて洗い出してから、それを整理・再配置して、コンテンツ移行方針を決定します。 続いて、移行先で受け皿となるコンテンツモデルの設計を行います。 そこまで準備が整ったら、コンテンツ移行の実作業を行います。 実作業をどのようにやるかは場合によりけりですが、私の感覚では、コンテンツ数が数十〜数百程度であれば手作業で、それを越える場合はスクリプトでの自動化を検討した方がよいイメージです。 実作業が終われば、最後に確認を行って問題がなければ終了です。 ただし、コンテンツの移行を行った後で、デザイン(テーマ作成)フェーズにおいて作成した基本スタイルの調整が必要になることがあります。 用意していたスタイル要素では移行したコンテンツがきれいに表現できないことがあるからです。 その場合は、スタイル調整を行います。 尚、プロジェクト期間が長くなる場合は、移行作業中に現行サイトにコンテンツが追加されるので、それらの差分を埋めるために実作業と確認を繰り返す必要があります。

この一連の作業は、新規の構築の場合には発生しません。 もちろん、新規の場合でもサイト構成の決定やコンテンツ作成の作業は発生しますが、「既存のコンテンツの再整理」の作業には多くの方が想像する以上に手間と時間がかかります。 コンテンツの取捨選択、古い HTML マークアップの修正、移行モレのチェック等々、細かな作業が積み上がるので、サイトの規模が大きければ大きいほど、結果としてかかる時間はリニューアルの方が大きくなります。

この問題について依頼者側ができる対策 :

  • コンテンツ移行方針の骨子をあらかじめ決めておく
  • 現行のコンテンツの洗い出しを自社で行う
  • 移行が不要なコンテンツを洗い出しておく

...

ということで、ウェブサイトのリニューアルが新規構築よりも高額になる 2 つの理由、というお話でした。

近年はウェブ制作プロジェクトといえばリニューアルプロジェクトが大半で、歴史が長いサイトほど規模も大きくなってきているので、要件抽出や移行の作業のプロジェクト全体に占める割合が高くなっています。 このあたりをいかにスムーズに進めるかは制作会社だけでなくサイトオーナーである依頼者側の責任の範囲でもあると思いますので依頼者側もぜひ積極的にリードする姿勢を持っていただき、サイトリニューアルの成功確率を高めていただければと思います :)