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ウェブ制作の発注者が最低限行うべきこと

今回は ウェブ制作の発注者が最低限行うべきこと についてお話ししたいと思います。

ウェブ制作プロジェクトの成功率を上げるために発注者にできることというのはたくさんありますが、今回はその中でも「ここは最低限やっていただかないと!」と筆者が考える必須のポイントについてご説明します。 ここが押さえられていない場合は、特にクライアントの成功を望む制作会社のスタッフであれば「そもそも本当に成功させる気あるの?!」と疑ってしまう可能性も高いと思います。

  • その 1: 目的の明文化
  • その 2: CSFs の明文化
  • その 3: 経済性分析
  • その 4: 受け入れ条件の決定

その 1: 目的の明文化

ビジネスにおけるウェブ活用・ウェブ制作には「認知の拡大」や「ブランドイメージの向上」等の「目的」が必ずあるはずです。 そして、その目的には事業環境や事業ビジョンにひもづいた「 上位の目的 」もあるはずです。 それらを明文化することが重要です。

ウェブ制作会社の仕事というのは、発注者の「やりたいこと」がまず先にあって、それを実現するためにウェブ上での手段を考えたり具現化したりする、というものです。 プロジェクトの上位目的と背景が示されれれば製作会社は経験をもとに「実はこんなアプローチもありますよ」とプラスの提案を行うことができますが、上位目的が不明瞭なままだとそういった提案ができません。 目的がはっきりと示されず「ウェブサイトをとりあえず作ってください」というお話になると、制作会社は「発注者の要求をただこなす」以上のことができなくなります。 それだと「ただこなす」タイプの制作会社はそれで喜ぶかもしれませんが、親身になってクライアントの成功を願う制作会社のモチベーションは下がります。

その 2: CSFs の明文化

目的を達成するために必ず押さえるべきポイント――いわゆる「 CSFs 」( Critical Success Factors )の明文化も、発注者側で行っておくべき仕事です。

一般にあるひとつの目的に対して採りうる打ち手の選択肢は複数にあります。 選択肢の中でどれを選ぶかは遅かれ早かれ決める必要がありますが、その決定は発注者が主体的に行うべきです。 ということは、その意思決定の際によりどころとなる CSFs は発注者が率先して決めておくべきです。

このあたりに関して発注者側の方はよく「まずどんな選択肢があるのかを制作会社に洗い出してもらってから検討したい」と考えますが、まだ何も方向性が決まっていない段階で「とりあえず選択肢をあげる」となるとその数が膨大になり、効率的ではありません。 たとえるなら「ウェブで〇〇がしたいので、どんな選択肢が考えられるか教えて」と抽象的に言われるのは、「東京から大阪に行く方法をとりあえず洗い出して」と言われるのに似ています。 それで選択肢を洗い出せないわけではありませんが、リクエストする側には「移動時間は 4 時間以内で」「明日行ける方法で」等といった条件が必ずあるはずで、そのあたりをきちんと提示されると効率がぜんぜん変わってきます。

また、事前に CSFs を明確にしておくと、正しい意思決定ができる確率はぐっと高まります。 明文化する過程の中で大きな気づきが得られることもあるので、上位の目的と CSFs はまず発注者側で明確にしプロジェクトチーム内で認識の統一をはかっておくことをおすすめします。

実際にプロジェクトが始まっていない状態で精度の高い CSFs を出すことは難しいですが、やっておくだけの価値はあります。 仮説ベースでかまわないので CSFs はできるかぎり事前に洗い出すようにしてください。

その 3: 経済性分析

これは改めて言うまでも無いことかもしれませんが、一般にできていないことが多いのであえてあげてたいと思います。 発注者がやるべきこと重要な仕事に「 経済性分析 」があります。 これはいわばプロジェクトの「収支計画」のことです。

ウェブ制作は投資です。 特に新しいサイトを構築する際は最初に多くのコストがかかるため、それをどのくらいのスピードでどう回収してくのかを考えておかなくてはなりません。 逆に、どのような価値が期待されるかを見ておかないことには、初期の制作コストにどれだけのお金がかけられるのかわかりません。

多くの発注者の方は、経済性分析・収支計画を一切立てずにとりあえずで制作会社に声をかけてしまいます。 そうすると、制作会社からの見積もりが先にあって、それを元に運用計画や予算を立てることになります。 しかしそれでは、社内決裁を通すためだけに辻褄の合う計画を無理やり立ててしまう事態にもなりかねません。

ウェブ制作会社との接点がそれまでになければ、もしかしたらコスト感がまったくわからず計画も立てられないということがあるかもしれません。 しかしその場合でも、精度は高くなくても一定の計画は立てられずはずです。 それもまったく難しいほど知識や経験が不足しているのであれば、ウェブ制作の成否は制作会社の腕次第で、制作会社にほぼすべてを委ねる形になってしまいます。

その場合に「言われたものをただ作る」タイプの制作会社に声をかけてしまうと高い確率で失敗します。 事前に収支計画を立てるのが難しいなら、企画段階からサポートしてくれる外部のコンサルタントや知り合いに協力を仰ぐことをおすすめします。

その 4: 受け入れ条件の決定

発注者が必ず行うべきことがもうひとつあります。 それは、ウェブ制作の成果物が完成し、最後に検収を行うときの「 受け入れ条件の決定 」です。

最終的な成果物として何が得られると OK なのか、プロジェクトの完成なのかというゴールが明確になると、そこから逆算で必要なものを考えられます。 それは制作会社側にとってよいだけでなく、発注者自身の仕事も楽にしてくれます。

このあたりに関して経験の少ない発注者の方はつい「実際にモノが出てくるまではわからないから」と後回しにしがちですが、「上位目的」「目的」「 CSFs 」等が明確にできれば、そこから論理的に導き出せる受け入れ条件はある程度見えてくるはずです。 まずは明らかにわかるものから洗い出して明文化するだけでも価値があります。

多くの場合ウェブプロジェクトで重要なのはサイトが完成した後の「運用」です。 しかし、完成したサイトが必要な特徴を満たせていないとそもそも適切な運用が不可能になってしまいます。 適切に運用できるサイトができあがることを確実にするために、なるべく早い段階で受け入れ条件を決めておきましょう。

ポイント 1 2 3 は制作会社に声をかけるずっと前の企画の初期段階で、ポイント 4 はプロジェクトの概要・成果物が固まってきた直後に詰めておくのがよいと思います。

おわりに

実は、このあたりのポイントがうやむやなままでもウェブ制作プロジェクトを進めることは可能ですし、それで進んでいるプロジェクトもたくさん見かけます。 しかし、そのようなプロジェクトの動かし方では、プロジェクトの成否はほぼ制作会社の担当者の腕にかかってしまいます。

一般に、制作会社の仕事はあくまで発注者のサポートであり、発注者の代わりに事業やプロジェクトを行うことではありません。 そのため、プロジェクトの根幹となる「どこに向かうべきか」「そのためには何を押さえるべきか」「何が達成できたらゴールなのか」といった部分は、発注者側が責任をもって決めておく必要があります。

制作会社やコンサルタントというのは、クライアントのダイエットをサポートするトレーナーのようなものです。 トレーナーとしてできることをやり尽くしたとしても、本人に代わってごはんを食べたり運動をしたりすることはできません。 そのため、企画の初期段階から制作会社やコンサルタントにサポートしてもらう場合でも、意思決定の主導権と責任は常に発注者側にあるという心構えを持つことが重要です。

というわけで、 ウェブ制作において発注者側で最低限やっておくべきこと というお話でした。 ご参考になれば幸いです。