なぜ無料の CMS を使ったウェブ制作が高額になるのか
近年ウェブサイト制作といえば、 WordPress や Joomla! 、 Drupal といった無料の CMS ( 正確には「 オープンソースの CMS 」 )を使って行うことが一般的です。 そのため、ウェブ制作の材料費というのは(ウェブサーバーや画像素材の費用は別途かかりますが)そう多くはかかりません。 それにもかかわらず、制作会社が出してくるウェブ制作の料金見積もりは、ウェブ業界以外の方が想像するよりも多かれ少なかれ高くなることが多いようです。
無料の CMS を使っているのに、それで作るウェブサイトの制作費はなぜ高額になるのか 。 今回はその理由をご説明してみます。
前提
回答に入る前に、お話の前提を述べておきます。 今回のお話では、 ビジネス用途で明確な目的を持って行うウェブサイト制作 を想定しています。 世の中には、趣味のウェブ制作や、ビジネス用途であっても目的が不明瞭なウェブ制作等もありますが、今回はそれらは想定していません。
なぜ無料の CMS を使ったウェブ制作が高額になるのか
早速結論ですが、なぜ高額になるのか、その理由は それだけ手間がかかるから です。 もう少し正確に言うと、 ウェブサイト構築の本来の目的を費用対効果よく達成するには多くのナレッジワークが必要になるから です。
インターネットが普及して 20 年。 企業や個人がウェブサイトを持っていることには、いまや何の目新しさもありません。 企業やフリーランスはサイトを持っていて当然とも言える状況です。 そのため、サイトを「ただ作るだけ」「ただ持っているだけ」では何の優位性も生まれません。
実店舗のビジネスで、コンセプトをただなんとなく決めて適当な立地で適当にお店作りをしても成功することが難しいように、ウェブサイトもただなんとなく作っても成功することは困難です。 やり手の店舗ビジネスの経営者が、最低限コンセプト・ターゲット・ポジショニングを考え、調査を行い、適切な立地・メニュー・店構えを考えてお店を作るように、ウェブサイトの場合も一定以上の確率で成功させるには相応の工夫と努力が必要です。 特に「提供便益を少しでも多く」「売上・利益を 1 円でも多く」「成功確率を 1% でも高く」と考えるのであれば、相応の工夫と努力、手間は不可欠でしょう。
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実際、ウェブ制作の上位にあるビジネス目標を追求しウェブプロジェクトを成功に導くには、一般に次のような作業が必要です。
- 企画
- 設計・計画
- 作成・確認
- 設置
- コミュニケーション
- 全体管理
1. 企画 : ウェブサイト以外の部分も含めた全体の企画です。 上位の事業企画や年間計画との整合性の確認や、分析・調査、 CSF の特定、ターゲティング、ポジショニング、サイトの概要企画等の作業が含まれます。 ウェブサイトという視点から見ると WHY 〜 WHAT を決める作業です。
2. 設計・計画 : サイト構成・コンテンツ・ UI ・デザインテイスト・機能・トラフィック・運用等、ウェブサイトの各エリアにおける大枠の方向性の考案です。 企画をベースに、目的や内外の環境と整合した正しい方向性を見つけ出す作業です。 WHAT 〜 HOW を決めます。
3. 作成・確認 : 設計・計画をもとに、実際にウェブサイトを構築する作業です。 コンテンツライティングと編集、情報デザイン、ビジュアルデザイン、機能開発、見栄えと動作の確認等が含まれます。 HOW を作り込み、 WHAT と HOW の整合性をチェックする作業です。
4. 設置 : 開発サーバ上で完成したウェブサイトを本番環境に設置し本公開する作業です。 関連サイトの調整やバックアップ、保守の準備、リリース関連のプロモーション等が含まれます。
5. コミュニケーション : プロジェクト全体にわたる、ステークホルダー間のコミュニケーションです。 窓口対応、個別のやりとり、質疑応答、打ち合わせへの出席、議事録の作成、情報の整理等が含まれます。
6. 全体管理 : プロジェクト全体の管理です。 PMBOK 風に言うと、プロジェクトの立ち上げから始まり、スコープ管理、スケジュール管理、コスト管理、リスク管理、ステークホルダー管理、調達管理、統合管理等が含まれます。 規模が小さなプロジェクトの場合は簡易的に済ませても大丈夫ですが、明示的に触れられていなくてもこのような作業そのものは発生したりします。
ポイントは、これらの多くが 人的なナレッジワークである という点です。 つまり、人間が頭を使って行う作業が大部分であるという点です。 材料を用意し詰め込んでダイヤルをひねれば「チーン!」と欲しいものが自動的にできあがってくる、というものではありません。
その手間は、クライアントに確かな便益をもたらそうと、真剣に、責任を持って行えば行うほど多くなります。 結果、制作のコストもかさみます。
もちろん、制作料金が高いことは必ずしもよいしるしではありませんが、クライアントにとっての成功を真剣に追求し、サイト構築の先にあるゴールの達成を目指す制作会社であれば、ある程度高い金額を提示するのはむしろ当然とも言えます。 一定以上の金額を提示するということは、クライアントの成功を追求するプロフェッショナルの証と考えてもよいかもしれません。
制作にかかる金額の計算例
参考に、 10 〜 20 ページ程度の基本的な機能・構成のサイトを構築するために、上にあげた基本的な作業を行う場合を考えてみましょう。 かんたんに時間見積もりをするとざっと次のとおりです。
- 企画 10 時間
- 設計・計画 10 時間
- 作成・確認 20 時間
- 調整 5 時間
- 設置 5 時間
- トレーニング 5 時間
- コミュニケーション 10 時間
- 全体管理 10 時間
これだけで合計 75 時間になります。 仮に 1 時間 4000 円で計算すると、 30 万円になります。 もう少し少なく 50 時間で見積もるなら 20 万円、 100 時間なら 40 万円です。
単純な計算でもすぐに 30 〜 40 万円まで行ってしまうことがおわかりいただけるかと思います。
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いくら CMS が無料で材料費がほとんどかからなくても、ウェブ制作で重要な作業のほとんどはナレッジワークです。 特にクライアントの成功を追求しウェブ制作を責任を持って行おうとするとさまざまな作業を行う必要があります。 結果、一定のコストがかかってしまいます。
逆に言うと、本来サイト制作に必要な作業をクライアント側で行うようにすれば、その分だけ制作会社に支払う金額も抑えられる、ということです。 よい制作会社は単純な作業者ではなく成功のためのノウハウを持っているものなので、実際には単純にクライアントがやればやるほどよいというものではありませんが、見積もり金額が予算を大幅に上回っているような場合は、そういった手があるということを覚えておいていただくとよいかもしれません。
というわけで、無料の CMS を使っていてもウェブ制作が(業界以外の方が想像するよりも)高額になりがちな理由についてのお話でした。 ご参考になれば幸いです :)
次の記事では、 CMS を使ったサイト構築の費用相場について具体的に書いています。 こちらも興味のある方はぜひご参考になさってください。