なぜ WordPress は多くの技術者から悪く言われるのか
今回は なぜ WordPress は多くの技術者から悪く言われるのか というお話です。
WordPress は技術者に嫌われている?
ウェブ上には WordPress を貶すような記事があふれていますが、実際のところ WordPress はウェブ技術者(以下「技術者」)たちから嫌われているのでしょうか。 それとも、 WordPress は実は嫌われていなくて、ただ単に WordPress のことを悪く言う人たちの声が目立つだけなのでしょうか。
結論からいうと、 WordPress は実際に嫌われている と言えます(笑) しかしまた、 嫌われている以上に好かれている とも言えます。
参考になる情報がいくつかあげてみます。
技術者向けのアンケート調査では
「 Stack Overflow 」という世界的に有名な技術者向け Q&A サイトがありますが、そこが毎年技術者向けにアンケートを行いその結果を公表しています。 そのアンケートの 2019 年版に「嫌いなプラットフォームは何ですか?」という質問項目があって、 WordPress はそこで 59.5% もの人から「嫌いなプラットフォーム」として選ばれており、数ある候補の中で堂々の 1 位となっています。
つまり、実際のところ WordPress は嫌われています。
しかし、同調査に「好きなプラットフォームは何ですか?」という逆の質問もあり、その回答でもおよそ 40.5% もの人たちが WordPress を好きなプラットフォームだと答えています。
つまり、 WordPress は好かれてもいます。
CMS のシェアでは
もう一つ参考情報として、 WordPress の CMS の世界におけるシェアを見てみましょう。
(過去記事でも述べているとおり) WordPress は CMS の世界で過去 10 年以上連続してシェア No. 1 となっています。 その数字は 2019 年夏の時点で 60% で、続く 2 位とは 10 倍以上の大差をつけています。
CMS シェア( 2019 年 8 月時点):
- WordPress 61.1%
- Joomla! 5.0%
- Drupal 3.2%
つまり、サイト制作で CMS を利用する場合に 2 回に 1 回は必ず WordPress が選ばれている状態です。 CMS を使っていないサイトを含めた統計でもおよそ 3 つに 1 つのサイトで WordPress が使われているとされています。
もし世の技術者たちが皆 WordPress 嫌いであればこれはあり得ない数字です。 これは WordPress が強く支持されていることの何よりの証です。
ということで、 WordPress は確かに嫌われているけれど、それ以上に好かれている というのが WordPress に対する正しい認識だと言えるでしょう。
嫌われているのは WordPress だけではない
ちなみに、この WordPress の状況は WordPress だけに限られたものではありません。 おそらく、 2000 年一桁台に誕生した他の CMS も WordPress と似た状況にあると思われます。
一例として、 2019 年時点でシェア 3 位の CMS Drupal (ドルーパル)を見てみましょう。 Drupal はポジショニングや機能、内部構造等の面では WordPress と異なりますが、「 PHP (プログラミング言語のひとつ)で書かれている」「オープンソースソフトウェアである」「 2001 〜 2005 年の間に誕生した」といういくつかの特徴が WordPress と共通しています。 いわば WordPress と兄弟のような関係の CMS です。
そんな Drupal が、 Stack Overflow の同調査の「嫌いなウェブフレームワークは何ですか?」「好きなウェブフレームワークは何ですか?」という質問項目でダントツの低評価となっています。 「嫌いなフレームワーク」の方では 69.9% (高いほど×)、「好きなフレームワーク」では 30.1% (低いほど×)となっており、「好き」から「嫌い」を差し引くと -39.8 ポイントで、これは候補に並べられた他のフレームワークとは比較にならないほどの嫌われっぷりと言えます。
つまり、 WordPress だけが特別に嫌われているわけではない ということです。 比率としての嫌われ度という意味では Drupal はむしろ WordPress を上回っているとも言えるでしょう。
それでもウェブ上での批判の数は Drupal に比べて WordPress の方が断然多いように思います。 これはおそらくシェア・知名度の差が最大の要因です。 つまり、 比率という意味では WordPress と同等あるいは WordPress 以上に嫌われている CMS はたくさんあるが、 WordPress ほど利用者数の多い CMS が他に無いために相対的に WordPress を悪く言う人の数が多くなる・多く見える ということです。
事実の確認はこれである程度できたので、続いて「なぜ」の部分を見ていきましょう。 なぜ WordPress は技術者たちから嫌われているのでしょうか。 具体的に WordPress のどの部分が問題だと見られているのでしょうか。 ここからは統計的なデータが無いので、あくまでも私の個人的な観測に基づいた考察になりますが、見ていきましょう。
WordPress が多くの技術者から嫌われる理由
WordPress が技術者たちから嫌われる理由は大きく 3 つに分けることができます。
- 人気
- 古さ
- 誤解・知識不足
順に見ていきましょう。
1. 人気
上述のとおり WordPress は CMS の世界で(もっと広く言うとサイト制作のツールの世界で)圧倒的な人気を得ていますが、その人気は技術者の WordPress 嫌いを生む直接の要因にもなっています。
本来あらゆる道具は「適材適所」が原則で、用途や状況に合った使い方をしてこそポテンシャルを十分に発揮します。 サイト制作の道具である CMS もここは例外ではなく、「用途と状況に合わせて使い分ける」というのが本来の正しい使い方です。
しかし、 WordPress は桁外れの人気と知名度を持ってしまっているがために、本来 WordPress が向いていない場面でも使われてしまうことがあります。 たとえば、必ずしもウェブの専門家ではない意思決定者が「名前を聞いたことの無い CMS はリスクが高い」と考えて、消極的理由で WordPress を選んでしまうような場合があります。
そのような場合に最もしわ寄せを受けるのは技術者たちです。 WordPress 以外を使えばスムーズに満たせる要件に対して WordPress を使って半ば無理やり充足を試みる、という苦行を技術者は強いられることになります。
この問題の原因はそもそも「 WordPress が不向きな場面で WordPress を使ってしまったこと」にありますが、巻き込まれた技術者たちの印象としては「 WordPress のプロジェクトでひどい経験をした」→「 WordPress はひどい CMS だ」となってしまいます。 その結果、プロジェクトに関わった技術者が WordPress 嫌いになるということが起こります。
もっと単純なところでいうと、人気者は「アピールの道具」として使われるという面があり、 WordPress にもそれがあります。
たとえば、多くの人に愛される『タイタニック』『アバター』『アナと雪の女王』等の映画を「フツー」「映画をあまり見ない人向け」と貶しておくとお手軽に映画通っぽく気取ることができますが、それと同じことが WordPress でも可能です。 つまり、「 WordPress は時代遅れ」「 WordPress で満足するのは素人だけ」「私は WordPress なんて使わない」等と貶すことで、高い技術を持っているような雰囲気をかんたんに得られてしまいます。
他には、 WordPress と競合する自社の CMS やウェブサービスをアピールする際の道具として WordPress が使われることもあります。
このあたりはどちらかというと、 WordPress に罪があるというよりも、人気者の宿命という側面が大きいでしょう。 いわば謂れのない中傷です。
しかし、技術者が不満に思うようなところが WordPress に一切無いのかというと、そんなことはありません。 その一つが次にあげる「古さ」です。
2. 古さ
WordPress は 2003 年頃に誕生しました。 2003 年というと一見ほんのちょっと昔のことのように思えますが、ウェブの世界で 2003 年というのはかなりの昔です。 今や日本人の半数以上が持っているスマートフォンやタブレット、 4G はおろか 3G も、首位ブラウザ Google Chrome もその頃にはまだ存在していませんでした。 そんな頃に WordPress は誕生しています。
ソフトウェアの世界は新しい手法やソフトウェアが次々と生み出される日進月歩の世界ですが、新しい手法やソフトウェアというのは、機能面だけでなく拡張性・メンテナンス性・パフォーマンス・開発効率・使いやすさ等さまざまな面で既存のものよりも向上しています。
そのため、技術者たち(特に新しい技術を吸収し続けている技術者たち)にとって WordPress は後発のソフトウェアに比べてさまざまな面で見劣りする「古いソフトウェア」です。 歴史の長いソフトウェアならではの特徴があちこちに見られます。
WordPress の開発は今も活発に行われていますが、開発の方針として「問題なくアップデートし続けられること」「アップデートでいきなり使えなくならないこと」(「後方互換性」)を大切にしていることもあり、 WordPress の古さは同時期に誕生した他の CMS よりも際立つところがあります。
「ソフトウェアの古さ」という概念にピンと来ない方は、映画のたとえでイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。 たとえるなら、技術者にとって「 WordPress を使う」ということは、 SF 映画が好きな人が最新の映画を見せてもらえず 50 年以上前の SF 映画だけを見させられる、といったイメージです。 古い映画にも名作はあり、新しいものが必ずしもよいとはかぎりませんが、それでも、最新の技術を駆使したおもしろそうな映画が他にあるのを知りながら古い SF 映画しか見れないというのはあまりおもしろいものではありません。 WordPress を使った開発にもそれと似たところがあります。
WordPress の古さがどのくらい気になるかというのは技術者によってまちまちですが、他の CMS やフレームワークの経験があり比較対象を持っている技術者であれば、 WordPress が古いということには皆共感するところだと思います。
3. 誤解・知識不足
「人気」や「古さ」による批判にはある程度の真実が含まれますが、それとはまた別の WordPress 批判もあります。 それが誤解や知識不足による批判です。
実際、私がウェブ上で見つけた WordPress 批判を読んで最もよく感じる感想は「それは WordPress が悪いんじゃなくない?」です。 強めの調子で WordPress を貶している場合は特に、本人の誤解か知識・経験不足が原因であることが多い印象です。
確かに WordPress は広いニーズをカバーする便利な CMS ですが、サイト制作でいつでも使える万能薬というわけではありません。 また、 WordPress を正しく使えるようになるには相応の知識・経験が必要です。 歴史の長いソフトウェアなので、相応のメリットとデメリットがあります。 そのあたりの理解を飛ばして「ただ人気だから」「なんとなく」で WordPress を選んでしまったら、それは想定外のトラブルやストレスが生じても仕方ない気もします。
たとえるなら、カレーを食べるのにお箸を使っておいて、「お箸、使いづれー!」「お箸使っているやつ、ダセー!」「お箸なんて不便すぎるものはやめてスプーンにしました!」と言っている。 東京から福岡まで移動するのに移動手段に自転車を選んでおいて、「自転車不便すぎる!」「自転車遅!」と言う。 そんなのに近い状況が WordPress 周りではあちこちで起こっています。
CMS は複雑な数式を理解しないと使えないような難しいものではありませんが、(特に技術者として)正しく使えるようになるには相応の学習を必要とします。 ですので、学校や資格のようなものがあれば誤解や知識不足に基づくトラブルは未然に防ぐことができると思いますが、現状パソコンとウェブ環境さえあれば誰でもダウンロードして使えてしまうので、そのあたりの敷居の低さも、謂れのない批判の原因になっていると思います。 良し悪しですね。
……
というわけで、なぜ WordPress は多くの技術者から悪く言われるのかというお話でした。
批判されることも多い WordPress ですが、現実として WordPress は世界の CMS シェアの 60% 、 CMS 以外を含む全ウェブサイトでの利用でも 1/3 のシェアを取っています。 これは、批判とは比べ物にならないくらいの強い支持を得ていることの何よりの証拠です。
とはいえ、 WordPress は万能薬ではないので、シェアだけを根拠に選んでしまうとトラブルを招きかねません。 結局 CMS は、「人気だから使う」「批判が多いから使わない」ではなく、自社の目的と環境に応じて正しく使い分ける、というのがよいですし、本来の理想です。
(余談ですが、記事中に WordPress 以上に技術者に嫌われている CMS として Drupal をあげましたが、 Drupal を少し擁護しておきます。質問は「好きなフレームワークは?」「嫌いなフレームワークは?」というものでしたが、 Drupal はどちらかというと CMS と言われることが多く他のフレームワークと少し性格が違うので、フレームワーク枠で他と並べられるととても厳しいものがあります。)