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ウェブ制作プロジェクトでの Google スプレッドシートの活用方法

今回は、 ウェブサイト構築のプロジェクトにおいて Google スプレッドシートを活用する方法 をご紹介したいと思います。

はじめに

Google スプレッドシート( "Google Sheets" )には 3 つの特徴があります。

  • a) エクセルとほぼ同じ UI
  • b) クラウドベース
  • c) Google アカウントで利用可

多くの人に馴染みのあるエクセルとほぼ同じ感覚で使用でき、保存したデータはクラウドに保存され、 Google アカウントひとつあれば利用・共有できる――これらの特徴が揃った Google スプレッドシートは私にとってウェブサイト構築における不可欠インフラです。

今回は、そんな Google スプレッドシート依存症の私が、ウェブサイト構築プロジェクトにおける Google スプレッドシートの活用方法をご紹介します。

誤解していただきたくないのですが、今回は「ウェブ制作のこんな場面で Google スプレッドシートが使えます」という主張をしていて、「この資料は Google スプレッドシートで作るのが最適です」「 Google スプレッドシートは万能です」という主張はしていません。 以下にあげるさまざまな場面において、スプレッドシートよりも他のツールを使った方がよい状況は無数にあります。 大前提として、使うツールは状況と経験により適宜最適なものを決めればよいと考えています。

ウェブ制作プロジェクトでの Google スプレッドシートの活用方法

以下、プロジェクトの活動領域・フェーズごとに分けてご紹介していきます。

企画

  • プロジェクト概要シート

最初の企画の段階では、プロジェクト概要シートの作成にスプレッドシートが活用できます。 ビジネス背景・上位の目的・プロジェクトゴール・押さえるべきポイント・戦略・メインターゲット・提供便益・ステークホルダー・リソース・リスク等、プロジェクトの立ち上げ時に揃えておくべきものを一通りテンプレートとして用意しておくことで、考慮すべきポイントをモレなく押さえられるようになるでしょう。

プロジェクト管理

  • 体制図
  • ツール一覧
  • 質疑応答一覧
  • WBS ・タスク一覧

プロジェクト管理においては、体制図、ツール一覧、質疑応答一覧、 WBS ・タスク一覧等に Google スプレッドシートが活用できます。 体制図は、ステークホルダーが多かったり関係性が複雑だったりする場合には文字通り図にした方がよいですが、それほど複雑でない場合は単純な表で十分だと思います。

質疑応答一覧は、私が好んでよく使うものです。 質疑応答にはイシュー管理ツールを使う方法等もあるので、必ずしもすくレッドシートを使う必要はありませんが、 1) 導入コスト、 2) 一覧性、 3) カスタマイズ性、等の面でスプレッドシートにはメリットがあります。 しかし、 1 つの議題におけるやりとりが長くなる場合はスプレッドシートではつらくなることもあるので、適宜ツールを使い分けるのがよいかと思います。

ビジネス分析

  • 競合分析
  • TOWS 分析

ビジネス分析(あるいはマーケティング分析)の段階では、競合分析や TOWS 分析( SWOT 分析)等でスプレッドシートが便利です。 PEST 分析やセグメンテーション、ポジショニングマップ等にも使えないことはないかと思いますが、個人的には、これらをするのであればエクセルよりも他のツールを使った方がよいと思います(私自身過去に試したことがあります)。

ディレクション

  • マーケティング企画シート

サイトのディレクション・狭義のマーケティングでは、マーケティング企画シートがスプレッドシートで作れます。 このあたりは各社どうなっているのかわからないのですが、カード形式の企画データベースシステムのようなものが社内にもしあるのであればそれを使えばいいですし、そうでなければ、スプレッドシートのテンプレートを作って標準化した上で作業を進めると効果的・効率的です。

スプレッドシートで企画シートを作ることには賛否両論あるかと思いますが、私は 1) サマリーだけを、 2) 必ず 1 枚になるように作る、 3) 文字は無闇に小さくしない、という制限を設ければ、ありだと思います。 逆に、企画の詳細まで 1 つのシートに盛り込んでしまうようなことになれば、何かしら別の方法を使った方がよいと考えます。

情報デザイン

  • サイトマップ
  • ナビゲーションメニュー計画

サイトの情報デザイン(情報設計)を行うときには、サイトマップやナビゲーションメニュー計画の策定に、スプレッドシートは有用です。 サイトマップは、サイトのページ数が少ない場合や必要な情報をきれいに表現できる場合にはマインドマップを使うのもありだと思いますが、ページが数百ページを越える場合や各ページへの補足の情報が多い場合はスプレッドシートが使いやすいと思います。

個人的には、ワイヤフレーム作成においてもスプレッドシートが活用できる状況があるのではないかと思っていますが、私自身デザイナーではありませんし、バリバリの情報デザイナーの仕事ぶりを見たことがないので、ワイヤフレーム作成においてスプレッドシートが活用できるかどうか確信はありません。

機能設計

  • 機能一覧
  • データモデル設計書
  • アカウント一覧
  • 権限表
  • 利用プラグイン一覧
  • 利用ライブラリ一覧

機能設計の段階では、機能一覧、データモデル設計書、アカウント一覧、権限表(いわゆる「 CRUD 表」)、利用プラグイン一覧、利用ライブラリ一覧等でスプレッドシートが活かせる場面があります。 ユースケース一覧等もスプレッドシートで作れますが、このあたりはカードやカンバンボード等を実現したツールの方が使いやすい印象があります。

個人的な経験では、ウェブアプリケーションフレームワークを使わず CMS だけを利用するタイプの制作会社は、システム開発スキルが不足していることもあり、データモデル設計書を作らない傾向があります。 しかし、データモデルの複雑度が一定レベル以上に達したら、たとえありものの CMS を利用する場合でも、データモデル設計書は作っておく方がよいというのが私の考えです。 データモデルが複雑になればなるほど、ステークホルダー間の認識の違い・誤解が増え、プロジェクト途中・運用開始後のモデルの変更・再検討が必要になる可能性が高まります。 スプレッドシート形式のデータモデル設計書があることでプロジェクト途中の変化に強く(「アジリティが高く」)なり、よりストレスの少ない形でプロジェクトを進められるようになります。

テスト・検収

  • テスト一覧
  • バグ一覧

テスト・検収の段階では、テスト一覧やバグ一覧の作成においてスプレッドシートが役立ちます。 バグ管理には専用のツールも豊富にあるのですが、専用のツールを使うべきかスプレッドシートにすべきかは扱う情報の種類や量によって判断するのがよいでしょう。 個人的には、メールやチャットツール等過去の情報が流れていくタイプのツールでバグ管理をするのはつらいので、バグ発生件数が一定以上になれば、発注側が導入に消極的な場合でも、何らかのツールを導入すべきだと思います。 とはいえ、専用のバグ管理ツールがどうしても導入できない場合もあるので、その場合はせめてスプレッドシートを導入するようにしたいところです。

トレーニング

  • 資料一覧
  • チェックリスト

運用開始・切り替えに向けてのトレーニングの段階では、資料一覧やチェックリストにおいてスプレッドシートが役立ちます。 資料一覧の作成は最初は面倒に思えますが、資料の数が増えてくるとメリットがデメリットを大きく上回ってきます。 資料の数が一定数を越えて複雑になってきたら導入を検討するとよいでしょう。 チェックリストは、 QC 7 つ道具のひとつとしてもあげられているとおり品質管理・品質向上の基本であり王道なので、ここにかぎらず多くの場面で導入の価値があります。

リリース

  • チェックリスト

開発が一段落してサイトを本番環境にリリースする際には、チェックリストでのスプレッドシート活用が有用です。 本格的なシステム開発の場合はこのあたりは自動化しているところもあるかと思いますが、サイト制作の場合はチェックシート方式の方が多数派かと思います。 チェックリストによって、品質の「ゼロ」が「プラス」になったり「プラス」がさらに大きくなったりすることはありませんが、「マイナス」を「ゼロ」にする点では効果はてきめんです。 ウェブサイトのリリース時には細々としたタスクが意外にたくさんあるので、チェックリストを用意して臨むことで、タスクのヌケモレを防ぐとともに、リリース作業に伴う心理的ストレスも大幅に減らすことができます。

・・・

以上です。

最後に一覧を再掲します。

  • 企画
    • プロジェクト概要シート
  • プロジェクト管理
    • 体制図
    • ツール一覧
    • 質疑応答一覧
    • WBS ・タスク一覧
  • ビジネス分析
    • 競合分析
    • TOWS 分析
  • ディレクション
    • マーケティング企画シート
  • 情報デザイン
    • サイトマップ
    • ナビゲーションメニュー計画
  • 機能設計
    • 機能一覧
    • データモデル設計書
    • アカウント一覧
    • 権限表
    • 利用プラグイン一覧
    • 利用ライブラリ一覧
  • テスト・検収
    • テスト一覧
    • バグ一覧
  • トレーニング
    • 資料一覧
    • チェックリスト
  • リリース
    • チェックリスト

補足

補足として「 SI 業界のエクセル使いすぎ問題」(笑)に言及しておきたいと思います。

知っている方はよくご存知のとおり、日本のシステム開発業界・ SI 業界にはエクセル濫用の習慣があります。 これは、「レイアウトの自由度が高い」「ほぼ誰でも見れる」等のエクセルの特徴を活かして、資料は何でもかんでもエクセルで作るという風習です。 本来であればプレーンテキストやスライド等他のフォーマットで表現した方がよい情報もすべてエクセルファイルで作られるため、「読みづらい」「わかりづらい」「メンテナンスしづらい」と一部の人たち(大部分の人たち?)から大きな不評を買っています。

この問題について私は「 正すべきところもあるけど、よいところもある 」と思います。

確かにエクセルは万能ではないので、明らかにエクセルに不向きな情報をエクセルで管理するのはやめるべきです。 プレーンテキストやスライド、マインドマップ等他のフォーマットを使った方がよいものについては、よりよいツールがすでにあるのでそれらを使うべきでしょう。

一方で、今回ご紹介したように、エクセルを使えば効果的・効率的に表現できる情報はウェブ制作プロジェクトにかぎらずもっとあって、これらにはもっとエクセルを活用していくべきです。 あくまでも私の観測に基づく印象なのですが、多くのナレッジワーカーたちはエクセルを活用しきれていません。 それには「思考フレームワークの問題」と「エクセル活用技術の問題」、 2 つの原因があります。 エクセルの関数やマクロを知っていても、思考フレームワークを持っていない場合はそもそも活用のアイデアが浮かびません。 逆に、思考フレームワークだけ持っていても、それをエクセルで実現できる技術がない場合は当然エクセルは十分に活用できません。

エクセルをみだりに使いすぎている人は確かに使用を控えるべきですが、エクセルには多くの方が思う以上に活用方法があるというのが私の意見です。

おわりに

今回は、ウェブサイト構築プロジェクトにおいて Google スプレッドシートを活用する方法をご紹介しました。

「ウェブサイトを持っている」「 CMS で動的なサイトが作れる」というのは、一昔前は差別化要因になりえたかもしれませんが、今では衛生要因――ウェブ活用のスタート地点に過ぎません。 昨今のウェブプロジェクトでは、それらは当たり前のこととして、さらにその上に何ができるのかの勝負になっています。 結果、ウェブサイトの要件や仕様はますます複雑化し、情報の整理や適切なコミュニケーションの重要性が高まっています。

Google スプレッドシートを活用できると、複雑度を増すウェブプロジェクトの成功率は確実に上がります。 ぜひあなたのウェブ制作プロジェクトの参考にしてください :)