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「デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム」とは?

「デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム」という言葉を最近よく目にするという方もいらっしゃることかと思います。

少し前までは一部の人たちが使う業界用語的な位置づけだったこの言葉も、最近は有名ベンダー企業が自社サービスの宣伝文句に使っていることもありウェブやデジタルを専門としない方でも知っている方が増えてきました。 ただ、定義が不明瞭なまま使われていたり人によって意味が違ったりしていて、「わかるようでいまいちよくわからない言葉だなぁ」と感じられる方も多いのではないでしょうか。

今回はそんな「デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム」という言葉について説明してみます。

デジタル・エクスペリエンス・プラットフォームとは

デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム とは、平たく言うと、従来の CMS + CRM + アルファを組み合わせたアプリケーション群やサービスのことです。 英語ではそのまま Digital Experience Platforms と言います。

デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム = CMS + CRM + アルファ

ここで、 CMS とはコンテンツ・マネジメント・システム、 CRM とはカスタマー・リレーションシップ・マネジメント・システムのことです。

この「アルファ」に何が入るかはアプリケーションやサービスによって異なります。 よく例としてあげられるのは「 EC システム」や「 AI ベースの情報出し分け機能」等です。

もっと端的に言うと、少し前までバズワードであった(今も?)「オムニチャネル」対応のためのシステム、と言うと、マーケティング分野の方等にはピンと来るかもしれません。

ということでかんたんな説明はこれで終わり……なのですが、もう少し細かな説明が欲しい方のために、調査会社の Gartner 社による定義 ↓ をご紹介します。 説明にまた別の用語が出てきてわかるようなわからないような説明ですが、各用語のイメージが湧く方には比較的わかりやすくてよい説明だと私は思います。

What are Digital Experience platforms?

Gartner defines a digital experience platform (DXP) as an integrated set of technologies, based on a common platform, that provides a broad range of audiences with consistent, secure and personalized access to information and applications across many digital touchpoints. Organizations use DXPs to build, deploy and continually improve websites, portals, mobile and other digital experiences. DXPs manage the presentation layer based on the role, security privileges and preferences of an individual. They combine and coordinate applications, including content management, search and navigation, personalization, integration and aggregation, collaboration, workflow, analytics, mobile and multichannel support.

以下私による意訳です。

デジタル・エクスペリエンス・プラットフォームとは?

Gartner では、デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム( DXP )を、「共通のプラットフォーム上に乗った、統合された技術の集まり」のことであり、「幅広い層の人々に対して、安全で整合しパーソナライズされた情報とアプリケーションへのアクセスを、多くのデジタルなタッチポイントをまたいで提供するもの」と定義しています。 組織が DXP を利用する目的は、ウェブサイト・ポータル・モバイルその他のデジタル体験を構築、リリースし継続的に改善することです。 DXP は、人々のロールやセキュリティ権限、個々人の好みに基づいてプレゼンテーション層を管理します。 DXP は次のようなアプリケーションを組み合わせたり調整したりします: 「コンテンツ・マネジメント」「検索とナビゲーション」「パーソナライゼーション」「統合とアグリゲーション」「コラボレーション」「ワークフロー」「解析」「モバイルとマルチチャネルサポート」。

いかがでしょうか。 ピンと来る方にはピンと来るでしょうし、ピンと来ない方にはまったくピンと来ないことでしょう(笑)

ポイントを箇条書きでまとめます:

  • 複数の技術の組み合わせ
  • ロールや権限、その人の好みに応じて異なる情報やオファーを提供する
  • たとえタッチポイントが変わっても適切な情報やオファーの提供を行う
  • 組織(≒企業)が、ウェブサイトやモバイルアプリ等を構築し継続的に改善することをサポートする
  • 具体的には、コンテンツ管理機能・検索機能・パーソナライゼーション機能・情報の集約機能・共同作業のサポート機能・ワークフロー機能・解析機能・モバイル対応・マルチチャネル対応等の機能を持つ

CMS に馴染みのある方にとっては、従来の高機能な CMS とそう変わらないと感じられるかもしれません。 おそらくその感覚は間違っていなくて、 CMS の世界で一般的な機能に AI ベースのパーソナライゼーション機能が追加されたもの、と捉えらてもよいのではないかと思います。

ちなみに、起源としてはアメリカの調査会社 Forrester 社が「 The Forrester Wave: Digital Experience Delivery Platform 」という調査レポートの中で使い始めたのが始まりのようです。 レポートの中で名前があがっている Adobe ・ IBM ・ Sitecore ・ Oracle ・ salesforce.com 等の企業が自社の製品・サービスをアピールするときに近年よく使っており、それで認知が急速に広まってきているようです。

(デジタル・エクスペリエンス・プラットフォームを表すのに英語圏では DXP という略称が使われることが多いようなので、以下 DXP とします)

デジタル・エクスペリエンス・プラットフォームの何が新しいのか

以上の説明を聞くと、 DXP というのは従来のソフトウェア技術の組み合わせであり、それ以上のものではなさそうに思えます。 であるなら「何が DXP か!」「デジタルのエクスペリエンスのプラットフォームなんて大げさやな!」「またコンサル用語か!」と思いませんか?

私はちょっとそう思います。 ちょっと大げさで格好つけている感じがするなぁというのが正直な印象です。 実際、 DXP にはセールス用の煽り文句・コンサル用語的な側面が少なからずあると思います。

実際、構成要素となる技術には特段革新的なものや斬新的なものはありません。 DXP という言葉からこれまでに無いまったく新しいものを想像すると、その実体を目の当たりにしたときに落胆することと思います。

では、 DXP は「ただのコンサルワード」と切り捨ててしまってよいのかというと必ずしもそうではありません。 そこには重要なアイデア・視点の転換があるからです。

ひとつめは「統合」です。 ここで「統合」というのは技術を組み合わせることです。 今日競争力を保つために企業がデジタル活用を行う上で重要なのは、 CMS や CRM 等のツールを個別に場当たり的に導入するにとどまらず、「あらゆるタッチポイントにおける知覚価値向上」という巨視的な視点を持って各種ツールを組み合わせることである、という考えが「プラットフォーム」という言葉選びに表れています。 「アプリケーション」でも「ツール」でもなく、わざわざ「プラットフォーム」と呼ぶことにはその意味があると思います。

もうひとつは「体験」です。 「体験」というのはそのまま利用者や買い手や消費者の体験のことです。 DXP というのは、コンテンツでもリコメンドでも AI でもなく「体験」のためのプラットフォームです。 従来の CMS や解析ツールも、突き詰めていえば誰かの体験を向上するためのものであることは確かなのですが、その主役は「コンテンツ」や「データ」でした。 それらをすべて「体験」、言い換えると「知覚便益」を高めるためのツールとして打ち出したところが DXP の新しさです。

従来の CMS はすでに「コンテンツを管理するシステム」以上のものとなっています。 それをこれまでは「コンテンツのためのシステム」と呼び続けてきましたが、それでは名前と実態が乖離してきているということもあって、 DXP という概念や用語が提案されてきたのだと思います。

(ちなみに、個人的な意見としては、「体験」は抽象的で意味の広い言葉なのであまりふさわしい言葉選びではないと思います。言ってみれば、ブランドイメージも製品の機能もパッケージもスタッフとの会話も口コミも、ブランドが利用者に与えるものはすべてが「体験」ですが、現時点での DXP というのはそれらをすべてカバーするものではありません、また、そこを目指すべきものでもありません。その意味で、できれば DXP は「体験」よりもよい言葉を見つけてそれを使うのがよいかなと思います。)

ということで、「デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム」とは何ぞやというお話でした。 あくまでも私の理解に基づいた説明でありこれが 100% 正しい正解というわけではありませんが、興味のある方のご参考になれば幸いです。

参考文献